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ちょっと怒っています

  • 執筆者の写真: nobu1990
    nobu1990
  • 2024年5月2日
  • 読了時間: 5分

いきなり不穏当なタイトルで申し訳ありません。 ですが内心腹が立っていることがあります。 いつも見なければいいのにと思いながら、実はX(旧:ツイッター)を見てしまいます。個人的にあそこがよい言論空間だとは全くもって思ってはいませんし、日本人の全ての意見が集約されているとも思ってはいません。ただ明らかに間違っている(としか思えない)意見に接すると、どうにもムカムカイライラしてしまいます。 最近、それを強く感ずるのは、直近で行われた東京15区の補欠選挙での選挙妨害の件です。ここで選挙結果の解釈や選挙妨害の是非などについて論ずることはしませんが、一連の行為を2019年参院選において北海道で行われたヤジと結びつけて論ずる意見には強い違和感を覚えます。要するに北海道でのヤジを公職選挙法225条(選挙の自由妨害罪)で処理しなかったことが、今回の件の背景となっている、という言説ですね。 もちろん、ここで北海道でのヤジの是非自体を論じるつもりもありませんが、たとえば『逐条解説公職選挙法』(今手元にあるのは2009年版です)にも、「妨害の故意を認められない単純なヤジは、一般の演説においても容認されている程度のものである限り、本号にいう演説妨害行為に該当しないと解されよう」(同書下巻、1802頁)とあるのですから、当該行為が自由妨害罪に抵触しないことは歴然としていると思います。


問題は「ではなぜ単純なヤジが自由妨害であると解されないのか」ということです。たとえば「いや北海道のヤジには『妨害の故意が認め』られる」とか、あるいは「『一般の演説においても容認されている程度』のヤジとは思わない」と考える方もいらっしゃるでしょう。ですが公職選挙法の基本を把握しておけば、北海道での行為に225条をもって対応するのは困難であるという結論をすぐに導き出せるはずです。


具体的には225条が公職選挙法の「何章」に書かれているかが問題となります。ちなみに、この「章」について意識された方はどれほどいらっしゃるでしょうか。たとえば第一章は「総則」となりますし、第四章は「選挙人名簿」となります。僕の専門は選挙運動に関する規制全般ですが、これは第十三章に書かれているので、この論点を押さえている人向けには「自分は第十三章を専門として商いをやっています」と紹介することもあります。 そして225条についてですが、これは「罰則」を定める第十六章に書かれています。この第十六章の主目的は、字面どおり特定の(犯罪)行為について、その量刑を定めることにあります。ですが、それに関連する一つの重要な特徴として、処罰対象の前提となる行為が歴然とした刑事犯罪であるのか、それとも単なる行政犯罪であるのかを識別する役割ももっています。要するに「実質犯」と「形式犯」と呼ばれる区別ですが、両者の形式的な相違は、後者が当該犯罪の構成要件と量刑が分離するかたちで定めれている一方で、前者が同一の章、要するに第一六章に書かれていることにあるとされています。


具体的には公選法第129条の「事前運動の禁止規定」は、その行為の構成要件が第十三章に書かれている一方で、その量刑は第十六章に属する第239条に書かれているので「形式犯」と考えられます。逆に「買収及び利害誘導罪」の処罰規定は、その構成要件と量刑の双方が第十六章に属する第221条で定められていますから、「実質犯」であると解釈されることになります。そして自由妨害罪は第十六章に属する第225条で定められていますから、「実質犯」とみなされることになります。


そして実質犯は、選挙に関して行われる特定の犯罪行為を処罰することを主眼としていますから、ある行為が実質犯であるか否かを区別するには、その行為が「選挙に関し」という文脈を外してもなお、歴然とした犯罪行為であるかに着目すればよいことになります。たとえば「買収及び利害誘導罪」に抵触する行為は、大抵の場合、贈収賄の罪に問われることになるでしょうし、投票用紙の改ざんは公文書偽造・変造の罪になるでしょう(もっとも、このあたりの問題は前提となる刑法の規定に疎いので曖昧なところがあります。その点はご容赦ください)。 そういう視点で第225条をみた場合、同条文は各号でいっていることがバラバラですが、1号の場合は「選挙に関し、殺人、拉致、監禁、暴行、傷害、あるいは脅迫などの行為をしてはならない」と読むことができますし、3号の場合は「選挙に関し、何らかの社会的・経済的な利害関係を利用して、威迫・脅迫・強要の類の行為をしてはならない」と読むことができるでしょう。問題は、今回の件に絡む2号の規定でして、「交通若しくは集会の便を妨げ」の部分を往来妨害の罪と結び付けたり、「文書図画を毀棄し、その他偽計詐術」の部分を器物損壊罪とか、偽計業務妨害罪と結びつけたりしながら読むのは比較的簡単なのですが、「演説を妨害し」に対応する犯罪が何かはいまいち判然としません。刑法に詳しくないので釈然としませんが、皆さん何だと思いますか?(書き進めていていうのも問題ですが世間の解釈が揺らぐのも仕方ない気がしてきました)


ただ北海道でのヤジを何らかの犯罪行為とみなすことは、北海道警が「自由妨害罪の抵触の恐れがある」との当初の説明を撤回したことからも明らかなように、「無理だ」ということになるのでしょう。その一方で東京15区の補選で行われた一連の「選挙妨害」とされる行為を見ておりますと、断言まではしませんが一瞥して傷害・暴行行為に思えるものであったり、威力による業務妨害と思えるものがあったりしたかと思います。以上の点で両者には明確な区別があるはずですが、なのに両者を混同する議論が多く、ちょっと辟易してしまいます(その他、そもそも公選法に規定してある犯罪行為が親告罪なのか、非親告罪かなどの論点もあると思うのですが、色々探しても一次資料がみつからないので言及を避けます)。


長文を書いて疲れましたが、こんな感じでブログを活用すればよいのでしょうか。それともnoteにでも書けばいいのかな?他にもツイッターでの選挙法の解説には適当なものが多く、悲しくなることが多いです。 最近、この論点について取材を受けることが多いので、補足的に書いてみました。

 
 
 

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